やさぐれメモ

やさぐれた30代男性の自由帳

インスタグラムのsuggestionから辿る思い出

インスタグラムのおすすめユーザーにずらりと並ぶ、懐かしい顔や名前を眺めるのが楽しい。そんな中にゴエが出てきて、僕ははっとした。

 

ゴエは大学受験の浪人仲間だった。ルパン三世に出てくる石川五右衛門が好きと言ったので、付いたあだ名がゴエ。どこかの大学の文学部の学生で、仮面浪人だった。

 

浪人生の僕は都内の予備校をいくつか渡り歩いていた。講義を単科で受講して、その日の気分で自習室を使い分けていた。ゴエの予備校は高校の友人ガンジーが通っていて友達が増えた(ガンジーに似ているから付いたあだ名だ) 。

 

冬に入る頃だったか、入試を具体的に意識するその時期に、いつもは明るい彼女が珍しく弱気になっていた。曰く、英語がてんでダメだという。

 

「やさぐれ、あたしどうしたらいい? あたしどうしたらいいか分かんないよ、ヤバイよ、このままじゃ絶対受からないよ」

 

夜間学部の学生だった彼女は日中、かなり年上らしい彼氏との逢瀬に時間を割いていた。予備校に来ても、机に向かっているところを見た仲間はいなかった。

 

仲間の1人は特定の異性がいることに嫉妬して、「あれじゃゴエは受からないよ、受験に本気じゃないもん」と言い続けていた。僕はそういう嫉妬はなかったけど、やはりそう思っていた。

 

どちらかというと、彼女が大学生であることに嫉妬していたかもしれない。自分より一歩先のステージにいて、かなり年上の異性を通して、さらにもう何歩か先の世界を知っている。労働とか、金の使い方とか、美味しい店とか、社会人の世界を。

 

「ねぇ、あたしどうしたらいい?」

 

たまたま一緒にいたガンジーは、困った顔をして僕を見た。 

 

今さらもうどうにもなんないでしょ。

僕は冷たく言い放った。

 

英語なんて積み重ねだよ。いきなりデキるようになるわけないじゃん。だからみんな1年間勉強してんじゃん。そんなムシのいい話あるわけないじゃん。

 

びっくりしたゴエは泣きわめいて何か叫んでいたけど、僕はめんどくさくなって、ゴエを置いて駅に向かって歩き出した。

 

受験が終わって、僕もガンジーもお互い第一志望に合格できた。ガンジーの話ではゴエはその後、予備校に来なかったそうだ。風の噂でゴエは在籍している大学に戻ることにしたと聞いた。

 

あれ以来、ゴエには会えていない。もっと違う言葉を、彼女が求めていた言葉を投げるべきだったと、僕は少し後悔している。

 

 インスタグラムの中のゴエはやはり室井滋似で、あのときと変わらない顔だった。自己紹介には編集者/ライターとあった。あの頃語っていた憧れの職業に就いたのだ。僕はほっとした。

 

写真にはどれも隣に室井滋とは全然似ていない幼い姉弟が写っている。撮っているのはご主人だろうか。いかにもインスタグラム風な、幸せそうな写真が並んでいた。